エレクトロニクス・フィーバー

プログラミングと電子工作で共有しようと思ったことを載せていきます

バイポーラ・トランジスタの三極管化

三極管の静特性として、 EP, IP 特性という物がよく出ます。 これは真空管増幅回路のロードラインを引くために必要な図なのですが、ゲートのバイアスを変えることによってきれいに線が並ぶ様子を見ることができます。

一方、トランジスタの EC, IC 特性は、これとはだいぶ趣が異なる形状になります。 これを以って、「トランジスタより真空管のほうが線形性がいい」などと主張する人が昔はいたそうです。

さて、バイポーラ・トランジスタでもこれと似たようなグラフを作ることができることを見てみましょう。

LTSpice でシミュレーション

まず、バイポーラ・トランジスタは電流増幅素子なので、負電圧をバイアスにする代わりに、負電流の電流源 Ibias をバイアスにします。これを 0 → -50μA の範囲でパラメトリック解析します。

次に、ここがミソですが、トランジスタの C-B 間に高抵抗 RCB(ここではとりあえず 1MΩ とします)を挟みます。

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以上でコレクタ電圧と電流の関係をDCスイープすると以下のようになります。 きれいな三極管特性になりました。

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仕組み

要するに、単なる自己バイアス回路です。

トランジスタの VBE, hFE を一定とし、バイアス電流 Ibias = 0 とします。 コレクタに電圧 VC (> VBE) をかけた時、 { V_{CB} = V_C - V_{BE} } と置くと ベースに流れる電流は { I_B = \frac{V_C - V_{BE}}{R_{CB}} = V_{CB} / R_{CB} } となります。さらにコレクタ電流は {
I_C = h_{FE} I_B = \frac{h_{FE} V_{CB}}{R_{CB}}
} ですから、 {
R_C = R_{CB} / h_{FE}
} と置くと、 {
I_C = V_{CB} / R_{C}
} という簡単な式になります。つまり、IC は VC に比例するので、きれいな直線になるわけです。

ここで、例えば hFE = 100 とすると RC = 1MΩ / 100 = 10kΩ というかなり小さい値となってしまいます。 素の状態のトランジスタだと、これが数MΩと、近似的に理想的な電流源とみなせる特性を持っています。 今回の手法は、RCB を入れることにより、局部帰還をかけて増幅率を下げる代わりに歪を小さくした、というだけのことに過ぎません。